朝日新聞 2007/09/30|ブレア戦略継承、失敗も学べ(パリ 国末憲人さん)
11月30日は「サルコジなしの日」ー。
フランスの市民団体や一部のジャーナリストらがこんな記念日を設定し、賛同を呼びかけている。サルコジ大統領に関するニュースをこの日は一切伝えないでおこう、というのだ。感想を求められた大統領府のマルティノン報道官は「記者の方々が一日休みを取りたい、という意味なら応援しますよ」と苦笑した。
こんな企画が生まれたのは、仏メディアへの大統領の露出がそれだけ多いからだ。場所と場面を変えて一日に何度も登場し、演説や会見をこなす。年金問題から農業、教育、外交とテーマは多岐にわたり、その一つひとつが現状を大きく代える改革案だ。新聞は連日一面トップ週刊誌の特集でも、テレビの討論番組でも、焦点はいつも「サルコジ改革」だ。国家指導者には、安倍前首相のように世論やメディアから様々な難問を突きつけられて身動きできなくなる人が少なくない。サルコジ氏はなぜ、逆にメディアを振り回す余裕を持ち得たのか。
「『天候をつくり出せ』という言葉が英語にあります。人々が向かう場所に先回りをして、後から来るみんなを整理してしまう。サルコジが実行しているのはこれなのです。現状を自ら創出する。他の人々は従わざるを得ない」
仏ルモンド紙のインタビューでアラスター・キャンベル氏はこう分析した。大衆人気を誇った英ブレア政権の報道・戦略局長としてメディア戦略を一手に引き受け「影の副首相」と呼ばれた人物だ。キャンベル氏は、英ブレア政権で自ら展開した手法をサルコジ氏が仏で継承したと考える。両政権に以下の点が共通しているという。
1)先んずる
メディアから政権の課題を設定される前に自ら次々と課題を示し、主導権を握る。2)頻繁な露出
自ら頻繁にメディアに登場し、政治に無関心な大衆とのつながりを保つとともにメディア側も満足させ、政策遂行を容易にする。3)反復で訴え
サルコジ氏は、停滞ぶりが目立ったシラク政権との違いを強調する「リュプチュール」(決別)を掲げ、ブレア政権は「新しい労働党」という言葉を掲げた。二人とも、いったん決めたスローガンをしつこく繰り返した。「そこが大事。目移りが激しい現代人は政治を意識する機会が少ないだけに、メッセージはできるだけ明確で、衝撃的、具体的でなければ」政策そのものよりも政策の訴え方、売り込み方を重視する姿勢は米ブッシュ政権にも共通し、時に「ポピュリズム」との批判を受けた。だが、キャンベル氏は主張する。「コミュニケーションこそが最も大事なことなのです」と。
ただ、キャンベル氏は重要な事実に言及していないうんぬん。ブレア氏は最後まで英国民にイラク戦争の正当性をうんぬん。メディア戦略に立脚した政治は意外とうんぬん。ブッシュもうんぬん。サルコジもうんぬん。
『天候をつくり出せ』
人々が向かう場所に先回りをして、後から来るみんなを整理しろ。それは自ら状況を創出したも同然だ。後から来る者は従わざるを得ない。
1)先んじろ
メディアから課題を設定される前に自ら次々と課題を示し、主導権を握れ。
→ ジョブスの公開書簡1号:EUに端を発した独禁法排除命令が米本土に波及する前に非DRMを支持。その後非DRM販売は広がり、最強硬レーベルの代表も非DRMの可能性に言及するに至っている。
公開書簡1号の目標は、一に批判勢力の分断。二に非DRM販売が普遍化するまでのタイムラグ。個人情報を埋め込んだ非DRMデータの販売、ライブラリ全体の一括アップデートしか受け付けない販売手法、加えてiTunes DBの暗号化(iTunes以外とのシンクロを不能に)などはライバル不在のうちでなければできない。客がキレイな花火に見とれるスキに、ユーザーライブラリを人質にとれ。
→ iPhoneの仮想敵はGoogle Phone。700Mhz帯のオークションすら始まる前に、迎撃態勢を整えろ。
2)露出しろ
自ら頻繁にメディアに登場し、大衆とのつながりを保つとともにメディア側も満足させ、政策遂行を容易にする。
→ 前項のようなネガティブ情報が広がる前に新しいニュース(例えば製品やサービス)で上書きしてしまう。例えばiPod Touchの初期不良はわずかなテスト時間があれば充分に潰せたもの。アップデート公開の迅速さはむしろ不自然。米本土の発売日、およびその熱狂を伝えるニュースが"予定通りに"ネットを覆う事が最優先。ITイノベーションのほぼ全ては北米市場で誕生する。ここを制するものが世界を制す。後はだまってついてこい。
→ iPod Touchの発売日とiPhoneアップデートは近接している。 新品のiPod Touchを手に入れてニコニコしている時には、iPhoneのサードパーティアプリを全滅させるアップデートなんてニュースには目が行かない「あーあーきーこーえーなーいー」。どちらも持ってない人間は「使ってみました新製品!」なわくわく情報とややこしいネガティブ情報にほぼ同時に接触する事になる。楽しく読める情報に耳目は集まる。ニュースは娯楽だ。
→ 途切れる事無くニュースを発せ。世間とメディアを熱狂させろ。冷静になるヒマを与えるな。
3)繰り返し訴えろ
解り易いメッセージを掲げてしつこく繰り返せ。できるだけ明確で、衝撃的、具体的に。商品(製品とサービス)そのものよりも商品の訴え方、売り込み方を重視する姿勢は売上げと株価を伸ばすのみ。「ポピュリズム」なんて誰も言わない「私たちの願いを叶えてくれる良い企業」。「コミュニケーションこそが最も大事なことなのです」。
→ 次の one more thing はなんだ? 次の one more thing はなんだ? 次の one more thing はなんだ?
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Jobs猊下はMac OSXからサードパーティを全部叩きだすだけのパワーを持ちつつある。てゆうか全滅しても困らない状況をApple は目指してると思う。M$がOffice引き上げたらAppleWorksにODFサポートつけりゃ済むハナシだし、iWorksってそのアルファ版(で開発継続費を稼いでるよう)にしか見えんし。keynote以外を便利便利と使ってる人を見た事無い。レビュー記事以外でわ。
抑止力は持っておきたい。無駄になりゃそのほうがいいに決まってるけど誰も予想できない事を山ほどやってのけて来たヒトだし。
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余談:『ブレア氏は最後まで英国民にイラク戦争の正当性をうんぬん。ブッシュもうんぬん。』について。
ブレア・ブッシュの退潮は「イラク戦争に勝てなかったから」。勝ってりゃ円満退職だったかと。ミモフタもないけど勝つ戦争には賛成だが負ける戦争には反対てのが民主主義だ。それも「文句なしの圧勝」しか認めない。ポピュリズムってのは民主主義の二つ名であってどちらで呼ぶかは結果論。歴史家の立場次第だ。有益なのはそのへんの醒めた分析、つまり思考素材の提供であって「国民の為に権力を批判する」を掲げてしまっては批判が目的になり、習い性になると機械的な非難と区別がつかなくなる。最低でもそう見られるリスクを背負う。義は魔物だ。
ひらたく言うとメディア戦略に立脚しない政治家が出て来たら国民とのコミュニケーションが足りないとか政治家としての説明責任とか言うんぢゃないのぉ?ってカンジ。こうなると売れなくなる。読みたく無いもの不快感が先に立つから。学ぶべきはミカタより対手。だよなぁ。他山の石他山の石。