「最前列の真ん中の客、寝てるわよ」
「なにアイツ昨日も来てなかった?ヒマなヤツ」
「アイツのおかげで回りの客までシラケるのよね。ホント、ヒマなヤツ」
「くそッ。オレの演技で目を覚ませてやるぜッ!」
~◇~
と、言うような会話が楽屋からダダ漏れに漏れてくる芝居があったとする。
役者がトモダチであれば楽しめない事も無いが、赤の他人なら興醒めだろう。
そこまでの芝居が面白ければ面白いほど、残念だ。
◇◇◇
「おいらホントはこの脚本あまり好きになれないんだよね~。だもんでこの役とこの役は自分なりの解釈で変えてます。」
「おいおい待ってくれよ。オレは元の脚本が大好きなんだ。そのままでやってくんな、そのままで。」
「いやでも、やっぱああいうの好きじゃ無いし。この先の筋も結構変えてるんですけどね。ウケるか なぁ、ウケるといいなぁ。」
~◇~
と、言うような会話を続ける演出家が、近くの席に居たとする。
映画館で上映中にめるめるする高校生が気にならないオレでも「しーっ」と言うだろう。
その演出家が名のある人であればあるほど、残念だ。
◆◆◆
舞台から客の視線を逸らしちゃなんねぇ。
切符のモギリも下足番も、ソイツをハズしちゃ小屋の敷居はまたがせられぬ。
桟敷と楽屋の区別がなけりゃ、芝居の幕もあがりゃせぬ。
無粋な客ならどこにも居るが、ウナらせてこそ千両役者。