今日のご飯はカレーだったんだけど(ちょっと嬉しい)、これ印度人に出したら「えーと」って顔すんだろうなと思った。ラーメンや餃子も中国人に出すと「えーと」って顔になるものらしい。といって、逆にそこで「これはカレー(ラーメン/餃子)ではない」とか熱弁されるとこっちが「えーと」って顔になるのだと思う。
だから、「正しい日本食」を政府が認定しましょうってニュースを見聞きしたときのオレは「えーと」って顔してると思うんだけど、でもこの記事にはびみょーな違和感が漂う。
海外日本食レストランのお墨付き、民間の「推奨制度」に(asahi.com)太字オレ。
2007年03月16日21時39分海外の日本食レストランのうち「正しい日本食」を出す店に、お墨付きを与える認証制度の創設を検討していた農林水産省の有識者会議は16日、政府が関与する認証制度を断念した。同日の提言で、民間による「推奨制度」に修正した。「政府がする事業ではない」などの強い批判を浴びたためとみられる。
有識者会議では、どのような日本食が「正しい」のかも検討してきたが、「現地で日本食として受け入れられている料理のすべてを否定することは困難」などと具体的には示せなかった。
提言は、新制度を担う主体を民間組織とし、申請したレストランの中から一定基準を満たした店に「推奨マーク」を与えるとしている。農水省は07年度中に制度を担当する民間組織を立ち上げる考えで、国内に計画の企画・立案組織、海外の国や都市ごとに実施組織を置く。推奨基準は、地域ごとにつくるという。
同会議は松岡農水相の提唱。世界的な和食ブームのなか、「日本食とは呼べないようなレストランが海外で目に付く」として昨年11月、有識者会議を立ち上げ、認証制度のあり方や日本食の定義について検討を始めた。
しかし、政府が関与する形での認証制度に対しては、「排他的、差別的で、政府がする事業ではない」などの批判が同省に寄せられていた。
同会議の座長をつとめた小倉和夫・国際交流基金理事長は会見で「今後の議論のきっかけになればいい」と話した。
昨年末の政府予算編成で松岡農水相が大臣折衝で獲得した同事業への2億7600万円の予算計上の是非なども今後、国会で議論されそうだ。
意図的にか知らないからなのか、ひとつ上の文脈を見落としているからだ。
「政府が関与する認証制度」は検証段階の国益追求ツール候補に過ぎない。まさに「今後の議論のきっかけになればいい」だ。この記事にはそっちのほうの解説が見当たらず、なぜか政局の予言じみた文言で終わってる。
ひとつ上の文脈ってのは『食文化もまた日本のソフトパワー・知的財産権のひとつ!』という知的財産戦略の事だ。例えばコレなんだけど、
農林水産省 - 海外日本食レストラン認証について(2006/11/28公開開始)太字オレ。
海外においては、日本食レストランと称しつつも、食材や調理方法など本来の日本食とかけ離れた食事を提供しているレストランも数多く見られます。
このため、海外日本食レストランへの信頼度を高め、農林水産物の輸出促進を図るとともに、日本の正しい食文化の普及や我が国食品産業の海外進出を後押しすること等を目的として、海外における日本食レストランの認証制度を創設するための有識者会議(以下、「会議」という。)を設置します。
、、、この文言を見て新聞記者さんが見誤るのも無理は無いと思った。この書き方では曖昧だからだ。
農水省の中に首相官邸の知的財産推進計画を消化し損ねているヒトがあるのだろう。
ここに 「日本の正しい食文化」というコトバが入ってるのは迂闊だ。こういう精神的な価値観を「目的」に差し挟むと、噛み合う話が噛み合わなくなる。勝手な文脈の勝手な解釈で騒ぎだす連中に付け入る隙を与える。それに「海外日本食レストランへの信頼度」なんて農水省の所轄業務ぢゃない。そもそも文句言うのは日本人観光客くらいのもので、それだって中村屋のカレー喰って「これはカレーではない」と熱弁する印度人みたような浅はかな連中だ(そういう印度人を見た事はないですが)。
ここは、海外で日本食がブームです。これはチャンスです。日本の農産物をもっと買ってもらいたいんです。農産物の輸出を促進したいんです。日本の農業どーすんねんという話なんです!という唾が飛んでくるような檄文を置いといて欲しかったところだ。それは農水省のヒトにしか書けない。
中には「昨年末の政府予算編成で松岡農水相が大臣折衝で獲得した同事業への2億7600万円の予算」さえつきゃなんでもいいってヒトもあるだろう。
こういう予算は概ね獲得省庁の外郭団体に流れる。経理を含む事務方の実作業のトップには、大概、叩き上げのノンキャリアが天下っている。彼らは水面下の調整や経理事務のエキスパートだ。決算報告書はノンキャリア同士で調整して、それからキャリア同士で調整して、所管官庁("親元"と言う)に出せばおしまい。
そのペーパーの裏側がキモなんだけど、大概は財団法人とか社団法人とかで、役所ではないから情報公開法は細かい内訳までは及ばない。上場なんかしてないから外部の人間は内容まで踏み込めない。この国の予算の相当部分はそういう流れかたをしてる。志操堅固な担当者ががっつり目標を意識していればむちゃむちゃ機動性が高く、効率が良い(つまり戦後復興や発展途上国で有用な開発独裁に向いている)のだが、目標点に達すると腐敗が始まり歯止めが無い。
有識者会議だけで2億7600万円もかかるわきゃないんで、この金額は当然その先を見込んだ金額のハズだ。なんだかんだで費目振替なんかできっちり消化される可能性がある。この予算、今後どう流れるかについては朝日なり赤旗なりに頑張って頂きたい。その上で、知的財産戦略本部が示す目標に照らした効果判定を読みたい。「政府が正しい日本の食文化を押し付けようとしている」なんて精神論はどうでもいい。重要なのは政府の資金効率だ。
一方、海外で「本来の日本食とかけ離れた食事を提供しているレストラン」については外務省が正しい認識を見せている。
外務省- 海外における日本食の普及と安全・安心の確保について(2005頃?)太字オレ。現在、健康志向や日本の生活スタイルの人気の高まりを背景に、海外において日本食が大変な人気となり、日本料理店が世界中で数多く展開されているだけでなく、各国料理においてもその技法や食材が取り入れられ、日本に対する海外のイメージの改善に寄与しています。
このような日本食ブームを背景にして、知的財産戦略本部(本部長:小泉内閣総理大臣)においては、「コンテンツ専門調査会日本ブランド・ワーキングループ」が開催され、同グループの報告書「日本ブランド戦略の推進」をうけ、「知的財産推進計画2005」においては、優れた日本の食文化を評価し、発展させること、また日本食に関する正しい知識や技術を広く普及し、海外展開を積極的に行うことが明記されました。
また、食文化の普及に関する民間の取組である「食文化研究推進懇談会」(会長:茂木友三郎 キッコーマン株式会社会長)がとりまとめた報告書においては、日本食ブームを受けた日本料理店の増加に伴い、料理人側の生魚の取り扱いについて知識が不足するケースも見受けられ、衛生面での対策が必要であることが指摘されており、これを受けて、知的財産戦略本部では、海外の日本食の安全・安心についてどのような衛生上の問題があるか、情報や御意見を募集しています。
これは外務省のヒトにしか書けない。
サカナを生で喰う食文化というのは、世界的には奇種であり、はっきりいえば「本能的なおぞましさ」があるらしい。あとすき焼きの生卵も。それが「海外において日本食が大変な人気」なのは外務省にとってはまさに値千金。世界中で日本酒や刺身や醤油の蘊蓄が通用するなら、こんなにおいしい話は無い。「各国料理においてもその技法や食材が取り入れられ」ているのなら、尚更に「外交兵器としての蘊蓄」の威力が高まる。
文化や伝統というのは本質的に閉鎖的で差別的でいやらしいものだ。
ダテに100年以上、ワインだのフランス料理だのの蘊蓄で威圧してくる連中にハブにされてきたわけでは無いという事だ。それに、頑張ってワインやチーズに詳しい日本人になるより、日本酒とそれに合うツマミに詳しい日本人のほうが断然かっこいいわけで。
外務省は正しく「料理人側の生魚の取り扱いについて知識が不足するケースも見受けられ」と衛生対策の必要性だけに注目し、情報を募っている。彼らの関心事は「日本に対する海外のイメージの改善」のみであり、例えば寿司や刺身による寄生虫感染の大発生が日本食への関心を終息させるような事態を避ける事、それだけが自分達が関心を持つべき範囲と理解している。
例えば中国人は淡水魚の刺身を絶対に口にしない。そういう生まれ育ちのヒトが上海あたりで日本食レストランに職を得た場合、適切な調理法を身につけるのは苦労だろう。
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だから「本来の日本食」なんて議論はどーでもいいのだ。テーマ設定を間違っている。
「日本の正しい食文化の普及」なんてのは政府の仕事ではないし、「排他的、差別的」なんて批判も的外れなだけでなく、不毛だ。
そもそも文化や伝統というのは本質的に閉鎖的で差別的でいやらしいものなのだ。
それは外交の武器になるか?
それは農産物の輸出促進になるか?
コトバや論理にできるのは精々そこまでだろう。
いやでも韓国政府には「正しいキムチ」マーク作ってほしいかもしんない。どーも最近直輸入でも味が違うような…、原材料名に醤油とかアミノ酸とか書いてある事が多いような…。