1. イントロダクション
1.1. クール・ジャパンはカネになってない
2006 年にこういうニュースがありました(グレーの所をクリック)。
仏 2少女、マンガの国あこがれ日本向け家出 警察に保護 - 国際(asahi.com: 2006年7月頃) ※元記事消滅
日本の漫画やロックに魅せられたパリ郊外に住む16歳の少女2人があこがれの日本を目指して家出。鉄道を乗り継ぎポーランドにたどり着いたところで警察に 保護された。
陸路ロシアを横断し、船で日本に渡る計画を立てていたが、経由国でビザ(査証)が必要だとは知らなかったという。仏紙リベラシオンが報じた。
同じ学校に通う2人は日本の忍者マンガ「NARUTO」や少女マンガ「ピーチガール」、日本のビジュアル系ロックの大ファン。「文化 から生活スタイルまで 何もかもがあこがれ」の日本に行こうと思い立った。
朝鮮半島までの陸路は鉄道を乗り継ぎ、「海は船で渡ろう」と計画。6月22日にわずかな現金と携帯電話、携帯オーディオプレーヤー、 漫画本を持って出発。 ベルギー、ドイツを経由し、25日にポーランドからビザ無しでベラルーシに出国しようとしたところで国境警察に拘束されたという。
フランスでは日本のアニメやコスプレ、Jポップが若者に絶大な人気で「オタク」「カワイイ」は仏語として定着。7月7~9日にパリ郊 外で開かれる日本の漫 画やアニメなど日本文化の紹介イベント「ジャパン・エキスポ」には6万人の人出が予想されている。
わたしはこの ニュースをこの人に教えてあげたひ。
ふらんすへ行きたしと思へども
ふらんすはあまりに遠し
せめては新しき背廣をきて
きままなる旅にいでてみん。
汽車が山道をゆくとき
みづいろの窓によりかかりて
われひとりうれしきことをおもはむ
五月の朝のしののめ
うら若草のもえいづる心まかせに。
ところでシ ベリア鉄道は1904年9月に全線開通してました。従って、行動力の源泉となる
「脳内あこがれ密度」は こうなります。
パリ郊外に住む16歳の少女2人 >>> 超えられないカベ > 朔太郎
てなヨタはともかく
「脳内あこがれ密度」はカネに なります。朔太郎も"新しき背廣"を買う時は、できればフランス製がいーなー、と探 した筈。さぞや日本 のコンテンツ産業も、、、
コ ンテンツ産業のGDPに対する割合
米国 |
世界平均 |
日本 |
4.70% |
3.15% |
2.66% |
、、、 なんだかショボイです。
百歩譲って、ハリウッドに比べりゃ月とスッポンなのは、解ります。
でも世界平均より 下というのはヘンです。だって私たちは「文化から生活スタイルまで何 もかもがあこがれの国」なのですよ?
グロス・ナショナル・ クール・ジャパン・アズ・ナンバーワンはどこにあるの?
それはね。キミの心の中さ!(^~^)b
数字に出てこない以上、他に答えようがありません。虚像。
しかも、経済産業省の調べではゲームを除く全てのコンテンツ産業の国際収 支 が
赤字で す。
海賊行為に苦しんでいるのはどこも同じです。
ど こかに、日本固有のボトルネックがある。
1.2. 日米における放送事業者のスタンス
アメリカのTV局はインター ネットの活用方法を探り始めています(事例
1,
2,
3,
4)。
とくにCBSの最高経営責任者は、
インターネットでコンテンツを入手したいというユーザーニーズの取り込みに失敗した音楽業界の前 例に留意すべきだ
と公言し、
Slingboxの ような小さな(しかし独創的な)会社と協調して います。
一方、日本のTV局は、コピワンで視聴者の利便性を下げ、YouTubeを監視する部署を作り、
録画Netや
まねきTVのような小さな(しかし独創的な)会社を訴えるなど、敵対的な動 きを強める一方です。
このスタンスの違いはどこから来るのでしょうか?
アメリカのコンテント産業の王様は、ハリウッドです。映画の業界人に比べれば、テレビの業界人は、はっきりと格下です。コンテントの流通ルートを「ウィン ドウ」と言うのですが、これはテレビや VHSの普 及に合わせて、映画の人が考え方やビジネスを変化させていく中で編み出したコトバです。すこし抽象的なので例を挙げると「ポケモン」というコンテントに とっては、TV局も映画館もDVDもゲームも玩具も「ウィンドウ」の一つです。それぞれの「ウィンドウ」の相乗効果が出るように、常に全体最適解を考え ろ。それが儲けが一番でかいし株価も上がる。という考え方です。
アメリカのテレビマンは「我々は映画の人から見ればウィンドウの一 つ」と いう考 えに慣れています。従って「我々が権利を保有するテレビ番組にとって、インターネットは新しいウィンドウの一つ」というアタマの切り替えも、やりやすいの でしょう。
対するに、日本のコンテントの中核をなすのはテレビ番組です。映像業界全体に君臨する頂点です。そ して彼らの流通経路は、放送事業の始まった最初から寡占であり、国内に限っては無敵です。
自分はゲーマーなのでゲームの例を出しま す。
日本の テレビマンの中に、任天堂のように頂上を明け渡した経験を持つ者は居ません(1997頃)。SCEのようにゼロ から実力で頂上を奪い取った経験を持つ者は居ません(1997頃)。セガのようにインフラ基盤を失った経験を持つ者は居ません(2000頃)。マイクロソ フトのようなチャレンジャーを迎え撃った経験を持つ者は居ません(2002頃)。んでもって任天堂が再び玉座を奪還しつつあるのですが、こりゃまた別のオ ハナシ。
TV放送事業にはこのような競争がありません。無風状態のカースト制度の頂点に長く居ると、 外部要因から来る変化に適応できなくなるものです。
「放送は生で見るものです。アサクラさん」、とか、
「崇高な放送の世界を邪悪な世界に引き込もうとしている」とか、ヒキコモリ くさいマ ニアックな倫理観を仕事に持ち込むようになります。そのうち誰か「地デジが無ければワンセグをご覧になればいいじゃない」とか言いだすのじゃないかと。
ひらたく言うと、
腐敗です。そして腐敗とは無自覚なものです。
2. 実際の製作者よりインフラ保有者 のほうが圧倒的に強い日本
経産省は2005年にコンテンツ産業全般に渡る分析を公開しています。
経済産業省/コンテンツ産業政策のページから入手できます。その中から適当 に拾うと、、、
平成17年2月、コンテンツ産業の現状と課題(pdf直接リン)
- 映画配給会社、テレビ放送局などのコンテンツ流通部 門が寡占的傾向にある中で、コンテンツの制作事業者は、制作資金調達、マーケティ ング等において流通事業者に大きく依存せざるを得ない状況にある。このため、コンテンツ産業では付加価値の多くを流通事業者が取得する構造にあり、コ ンテ ンツ自体の価値を創造する生産部門が必ずしも成果に応じたリターンを得られていない状況にある(P17)
- 我 が国番組のほとんどは資金提供者が権利を確保することが多く、製作会社による二次利用の機会が有効に活用されていない状 況。一部少 数の二次利用展開の成功モデルのほとんどは、製作会社が権利を管理するパターン(例「ドラえもん」「ポケットモンスター」)(P19)
要するに、テレビ局の支配力 がでかすぎると言っています。それが日本のコンテンツ産業の収益性を阻んでいると。そして
コンテンツ自体の価値を創造する人 々に版権を持たせろと。
では、具体的に番組製作の過 程で動く金額はどうなのでしょうか。
3. アニメの作り手に適切な報酬は渡っているか?
図は『アニメーション産 業の現状と課題』 という経済産業省が平成15(2003)年3月に作成したpdfを模写したものです。原文は
経産省の検索ページから入手できます。
スポンサー ⇔広告代理店⇔キー局までの上流はなかなか良さそうな取引なのですが、キー局⇔元請けプロダク ションの段階 で、一気に零細感溢れる数字になっています。しかも最初から
赤 字前提を匂わせる但し書き付き。
代理店とキー局がコストカットをすれば、ちょいとムダを省くだけで も元請けに渡る資金が激増しそうなものですが、
寡占で、圧倒的に立場の強い彼らにはその動機がありません。むしろ最近で は、トリコロールな信玄餅や、メロンのようなキャベツを珍重する人もいるくらいですか ら、逆に制作費を締め付けたほうがおいしいケースすらありそうです。
「視聴率がすべて」な ら、そうするのが優秀な人材となります。
キー局の手許に残るのは1,200万に過ぎませんから、そこから放送設備の更新費用や人件費を出すとなると、必ずしもおいしい商売ではありません。まして 地デジの投資負担がかかりますし。
しかし ながら、
放送局の真の存在価値は、番組とCMの送出インフラです。これは、かなりの部分を、 インターネットで、より安く、代替可能です。より低いコストで、番組を送信する手段があるのに、それをしないのは、社会全体としては非効率です。社会から 「得べかりし利益」を奪っています。ひらたく 言うと、
公益に反します。
スポンサーにとって は、僅か15秒程で、しかも視聴率しか目安が無く、さらにHDレコーダなどで飛ばされてしまうTVCMなどより、自社サイトを見てもらう方が、宣伝効率が 良くなっています。その場で商品を売る事 だってできるわけですから。IP放送や、動画共有サービスなら、番組に企業サイトへのリンクを埋め込む事も可能です。もしも元請けプロダクションが企業を 回って広告を集める事ができたなら、広告代理店の取り分1,000万円を製作資金に上乗せできる可能性があります。さらに、番組の作り手に、視聴回数に応 じた広告収入を届ける事も可能で す。
ひらたく言うと「
PVがすべて」。この場合「
よ り多くの人に、繰り返し見てもらえる番組」を作り出すのが、優秀な人材と なります。
図の中に「権利管理窓口」と言うものがありますが、これが「
我 が国番組のほとんどは資金提供者が、権利を確保することが多い(2. 引用2.)」です。TV局が制作 資金を出さなければアニメが作れないと言う事ですね。スポンサー、代理店、キー局などからなる「
XX製作委員会」 という ヤツです。
※ ここで「ゼーレの老人たちな?」と軽口 を叩こうとして自分で自分の妄想にハマってしまった。
スポンサーはグッズの売り上 げ を求める。代 理店は広告効果を求める。キー局は 視聴率を求める。
肩書きが喋っているかのような組織の利益代表者。人格の見えない「SOUNDONLY 02」。そんな「委員会の呼び出し」。
誰も作品の質とか、いまこれを世に出す意味とかには関心が無い。
ほんとうは自分は面白い作品を作る事にしか関心が無いのだけれど、
制作資金が無くなるからキリキリとした空気のこの場所から逃げちゃダメだx3。僕はここにいてもいいですか。
・・・みたいな。
◆◇◆
まぁ、どんな解釈でもくっつくのがエヴァではありますし、
そこを切り回せないで何が仕事かとも思うのですが、
感受性の強さで生きてるクリエイタという人種はもうちょっと作品に集中できる環境に置いた方が良い気もします。
トミノさんが一度壊れたのもたぶんコレだし。
こういう場所には野球の契約交渉みたように代理人を、ってそれを買って出たのがジブリの鈴木敏夫さん。なのか?
◆◇◆
ともかくオレ脳内では「XX製作委員会」の実際の雰囲気は「ゼーレ」。まる。
なにエヴァ見た事ない?うん。一応見といた方がいいかもよ。
音楽で言うとビートルズとかビリー・ジョエルとかレイ・ チャールズとかあのへんのクラスだから。
さぁそうなると、いくらDVDやグッズが売れても「下請け」に回る配分比は、~数値が見当たりませんが~、構造的にかなり渋そうです。もうちょっと出して くれよと 交渉しようにも、他に資金調達先の無い彼らには切れるカードが有りません。
これが「
コ ンテンツ自体の価値を創造する生産部門が必ずしも成果に応じたリターンを得られていない状況(2.引用1)」で す。
、、、しかたがないから声 優でもアイドル化してみる?主題歌タイアップしてみる?
なお模写の過程で、
図の赤や黄色の文字・彩色は手許で追加しましたが、グレイの彩色、配置、文 字強調はできるだけ原本に忠 実におこないました。ちまちまと矢印の大きさなどをなぞっていると、このpdfの作り手さんは
この産業構造は適切なものでは な いと 考えているのだろうなぁ、、、という気がしました。
pdf末尾には経産省の今後の施策が挙げられています。抜粋してみると、、、
「アニメーション産業の現状と課題(経産省の検索ページへ)」
※ 太字&下線は原文ママ。
7. 経済産業省のアニメーション産業に関する施策
- 独 占禁止法体系の厳格な運用による放送局のプロダクションに対する優越的地位の濫用の防止
- 金 融機関からの資金調達環境の整備 (コンテンツファイナンス研究会の開催等)によるプロダクションの自立支援
- 海 外の配給会社やブロードバンド等、キー 局以外の流通出口を活用したビジネスモデルの促進
意訳すると「
阿漕な商売しとったら承知せんぞゴルァ!」 といったところでしょうか。
4. 流通経路が「作品の権利」を持つとどうなるか
前述の通り、コンテント の流通経路を 「ウィンドウ」 と言いますが、その「ウィンド ウ」のどれか一つが強すぎると、他のウィンドウとの相乗効果よりも 自己の利益を優先し、「作品」の総合的なポテンシャルを損ねてしまいます。例えば、TV局は海外への放送ができないので、海外でどれほどアニメ人気があっ ても そこから収益を挙げる仕事に熱心にはなれません(実際、番組輸出は出世コースではないと思います)。逆に、どれほど愛されている「作品」であっても、彼らが持つ唯一のモノサシである「視聴率」に最適化するの が、最も合理的な行動で す。 これが、アニメ業界の基本構造です。一週間あたり80本も放送されていな がら制作会社は軒並み赤字決算という利益なき繁忙。
もちろん、放送事業者や代理店がやっている事は、所与の条件の中でもっとも合理 的な行動を取っているだけです。
しかしながら、ここで見て来たような取引を「正当」と感じる人は稀でしょう。
私たちが「作品」にお金を払うとき、そのお金はやっぱ クリエイターに届いて欲しいですからね。運送業者の取り分が一番でかかったら、やっぱ不可解ですし、まして梱包の都合で「作品」を弄ったりしたら、ねぇ?
その結果がこの数値です。
コ ンテンツ産業のGDPに対する割合
米国 |
世界平均 |
日本 |
4.70% |
3.15% |
2.66% |
クリエイターたちは人間をシベリア鉄道に密航させるほどの「
脳内あこがれ密度」を生んでいな がら、非効率な事です。
5. むすび
情報の結節点の上に築 かれた既存のTV体制は、情報の民主化を妨げ、社会全体に非効率を押し付けています。
放送事業者が、圧倒的な地位の下に作品の権利 を支配しながら、海外視聴者のニーズに応えず、国家的な逸失利益を放置し、あまつさえ己ひとりの視聴率のために「作品」を弄ぶ事すら厭わないならば、情 報流通のサイクルから はご退場いただき、代替事業者の登場を促すべきです。
なぜならば。
テレビとインター ネットの結合に失敗したら、日本の情報化は死 んでしまうのですから。
ageha にオリジナル無し。
- "You Will"(AT&T 1993)
- 「モバイルとデジタル家電が拓く新ビジネス」デジタル放送・デジタル家電1(世 界情報通信サミット2000)
- 中古ソフト問題雑感(だ☆めーず - ゲーム雑感:2002年4月29日)
- アニメーション産業の現状と課題(経済産業省の検索エンジン:2003頃)
- ブルーレイは大好きだがコピーワンスは大嫌い(IT Media +D:2004 年10月6日)
- コンテンツ産業の現状と課題(pdf直接リン)(経済産業省のコンテンツ産業政策のページ:2005年)
- ■テレビがネットを嫌う本当の理由■(世の中不思議で面白い:2005年4 月25日)
- 放送・通信の在り方に関する、私見その9(古川亨ブログ:2006年6月 16日)
- 詐欺師の告白(Meine Sache ~マイネ・ザッヘ~:2006年08月02日)
- テレビ業界を震撼させた新たな司法判断「まねきTV」仮処分却下(日経IT プラス:2006年8月17日)
-
政府の知的財産戦略本部(本部長・安 倍首相)は、音楽や映像を違法コピーした「海賊版」をインターネット上からダウンロードすることを全面的に禁止する 著作権法改正に着手する。27日に開く知財本部コンテンツ専門調査会に事務局案を提案。罰則も設け、08年通常国会に提出をめざしている改正案に盛り込 む。海外でも人気が高い日本のマンガやアニメなどの権利保護を強め、コンテンツ産業の育成を促す狙いがある。
現行の著作権法では、著作権者の承諾なしに複製したコンテンツをネット上に流すことは違法だが、違法コピーをダ ウンロードしても、個人で利用する限りは著作権の侵害とはならない。このため、ネット上で違法コピーを入手する行為が横行しても、規制するのは極めて困難 だ。
政府は「世界トップクラスのコンテンツ大国を実現する」との方針を掲げ、アニメや映画、ゲーム、音楽、出版など のコンテンツ産業の市場規模を、2010年までに15兆円にしたいとの目標を04年に設定している。
知財本部は、現状を放置すれば正規のコンテンツの買い手が減り、正当な利益を得られない制作者が創作意欲を失い かねないと判断。海賊版のダウンロードが違法であることを明確にすることでその流通を減らし、コンテンツ産業を成長分野に育てたい考えだ。
- 著作権むずい(あずまきよひこ.com:2006年12月10日)
- クリエイターに必要なのは著作権の強化ではない(池田信夫 blog:2006年12月20日)
- 2006年のテレビ包囲網——ゲーム・HDDレコー ダー・YouTube【コラム】(日経ITプラス:2006年12月21日)
- 信玄餅(MUSASHI -GUN道-まとめwiki)
- 最近のドラえもん(Melog:2007年01月07日)
- テレビ業界のカースト制(ハコフグマン:2007年1月10日)
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